パスワードレス社会への道:Passkeys の台頭 + 生体と行動の認証による未来

Future of Passwords Biometrics and Passwordless Authentication

2025/06/02 CyberSecurityNews — パスワードレス技術の急速な拡大により、デジタル認証の世界は大きな変革期を迎えている。2024年には、Passkeys の採用が前年比 400%増と驚異的な伸びを見せている。周知のとおり、パスワードは廃れるという予測がある。その一方で、最近の動向が示唆するのは、パスワードは完全に排除されるのではなく、洗練されたエコシステムの中に位置づけられ、最先端の生体認証や暗号技術と共存するという未来である。

パスワードレスの推進とパスワードの存続

パスワードの終焉が広く予測される一方で、依然としてパスワードは、デジタル・セキュリティ基盤に深く根付いている。

Verizon の最新のデータ漏洩調査レポートによると、Web 攻撃の約 80%が盗まれたパスワードにより引き起こされ、その脆弱性の高さが明らかにされている。

しかし、セキュリティ専門家たちの間では、パスワードを主要なセキュリティ対策ではなく、バックアップ認証手段として捉える傾向が強まっている。なぜなら、生体認証スキャナの失敗や、セキュリティ・トークンの紛失において、パスワードが普遍的な互換性を持つからである。

Verizon は、「たとえパスワードが、なにかに置き換えられるにしても、多くのケースにおいてバックアップの手段として使い続けられるだろう。したがって、完全なパスワードレス環境を目指すのではなく、新しい認証技術を取り入れながら、パスワードのセキュリティ強化にも取り組むべきだ」と提言している。

パスワードレス認証の急成長

パスワードレス認証の市場は、爆発的な成長を遂げている。グローバルで見ると、2020年の $1.2 billion から、2025年の $3.8 billion へと拡大し、年間での平均成長率は 25.6% に達すると予測される。

この急成長のベースにあるのは、パスワード関連の脆弱性を排除する、安全でユーザー・フレンドリーな認証方法への需要の高まりである。

Dashlane が発表した Passkeys 調査では、Target/PlayStation/X などの主要プラットフォームを含む 100以上のドメインが、Passkeys に対応していることが判明している。

Dashlane が分析した Passkeys 認証のうちの 42%は、EC サイトで用いられているが、その要因は、”カート放棄” の抑制にあるという。米国の平均的な消費者は、パスワードを思い出せずに、1日に 4.76回も購入を断念しているというデータがある。つまり、この “カート放棄” が、小売業界にとって大きな問題となっている。

主要テクノロジー企業が業界変革を推進

テクノロジー分野のリーダー企業は、パスワードレス認証の普及を、インフラ面から加速させている。Apple/Google/Microsoft は、自社のプラットフォームに FIDO サインイン規格の導入を約束しており、統一されたパスワードレス・エコシステムの構築が進められている。

Microsoft の報告は、Passkeys の使用が 987% 増加し、パスワードによるログインが 10% 減少したというものだ。このデータも、多くのユーザーが、パスワードレスへと移動していることを示している。

Google の Passkeys 対応の発表も、このパスワードレスへの変革における重要な節目となった。それによりユーザーは、パスワードを入力する代わりに、スマートフォンのロックを解除するだけで認証できる。

この Passkeys システムは、公開鍵暗号方式に基づく FIDO 認証情報を活用するものであり、高度なセキュリティを保ちながら、シームレスなユーザー・エクスペリエンスを提供する。

臨界点に到達した FIDO2 規格

Fast Identity Online  (FIDO2)  規格は、その採用における、重要な転換点を迎えている。現時点において、世界中のユーザー端末の約 95% が、WebAuthn 認証プロトコルに対応している。それより、パスワードレス導入の主な障壁の一つであった、デバイスとブラウザの互換性が解消され始めている。

FIDO Alliance の Executive Director である FIDO Alliance は、Microsoft と Google による主要ブラウザへの統合により、FIDO2 は従来のパスワードに真っ向から挑む存在になったと述べている。

しかし、その期待とは裏腹に、依然として導入が進んでいないことが、調査により明らかになっている。その背景には、インフラとの互換性の問題/規制対応の難しさ/変化に抵抗するユーザーといった課題が立ちはだかっている。

生体認証の進化と市場拡大

次世代の生体認証マーケットは驚異的な成長が見込まれており、2024年の $28.76 billion から、2030年の $118.65 billion へと拡大し、年間の平均成長率 27.1% に達すると予測されている。

この急成長の要因となるのは、サイバー・セキュリティの脅威の増加/政府支援の身分証明プログラム/スマートフォンによる指紋認証の普及などである。

最近の生体認証技術は、従来の指紋スキャンに加えて、3D 顔認識/虹彩スキャンに加えて、タイピング・パターンやデバイス操作の癖を分析する、行動生体認証などへと進化している。

これらのイノベーションは、生体認証とマルチモーダル認証のアプローチによりセキュリティを強化し、偽装リスクを低減するものとなる。

新技術の台頭:ZKPと行動的生体認証

ゼロ知識証明 (ZKP:Zero-knowledge proof) 技術は、パスワード・セキュリティにおける革新的な進歩とされている。この技術は、ユーザーが実際の認証情報を送信することなく、”その情報を知っている” という事実だけを証明する仕組みである。

この暗号化の手法により、検証プロセス中にハッキング可能な情報が傍受されるリスクが無くなり、従来の認証手段に内在する根本的な脆弱性が解消される。

また、行動的生体認証も、補完的なセキュリティ層として注目を集めている。この技術は、ユーザーごとのタイピングのリズム/マウスの動き/デバイスの使い方の癖などの独自のパターンを分析し、個別の認証プロファイルを構築する仕組みである。

規制と標準化の進展

各国の政府機関は、新たな認証技術の登場に対応するため、認証に関する標準を見直し始めている。

米国 NIST (National Institute of Standards and Technology) は、Passkeys とプラットフォーム認証を Digital Identity Guidelines に組み込み、セキュリティを保ちながら、これらのツールを適切に管理する方針を整備している。

EU も、EUDI (European Union’s Digital Identity) 規制により、加盟国に対して 24ヶ月以内にデジタル ID ウォレットの提供を義務付け、パスワードレスの普及を加速させている。

展望:ハイブリッド認証の未来

認証のあり方は、パスワードを完全に廃止するのではなく、高度な生体認証技術や暗号技術と共存させる、ハイブリッド・モデルへと向けて進化し始めている。

このアプローチは、セキュリティ上の要請と導入時の課題に対応し、多様な技術環境におけるユーザーの利便性も維持しながら、堅牢な保護を実現していくものだ。

ユーザー組織が、この移行を成功させる際のカギは、最先端のセキュリティ技術と実証済みの信頼性のバランスを取ることだ。それにより、攻撃者に対しては堅牢で、正当なユーザーは直感的に操作できる、認証システムの構築が可能になるだろう。