Cisco ルーターを侵害するFire Ant:エンタープライズの通信/認証/監視を標的化

Hackers Compromise Cisco Routers to Spy on Networks and Reach Critical Infrastructure

2026/09/01 CyberSecurityNews — Fire Ant による侵害は、個々のシステムに対する攻撃の範囲を超え、組織におけるトラフィック転送やアクセス管理を担う、信頼されているネットワーク・インフラに及ぶようになった。この脅威アクターは、Cisco IOS XR ルーターを監視/リモート接続/高価値環境へ向けた移動のためのプラットフォームへと変貌させており、このキャンペーンは、単なるゲートウェイの利用に留まらず、侵入者がルーターを攻撃基盤として悪用する手法が確認されている。

Fire Ant は、running configuration/commit record 内に本来は存在しない GRE (Generic Routing Encapsulation) トンネルを作成し、ネットワーク・トラフィックをキャプチャして、PCAP (Packet Capture) ファイルを外部 FTP サービスへ送信するほか、ログ/コマンド出力にも干渉して、管理者が活動の全体像を把握できない状態にしている。Sygnia のアナリストがこの活動を特定したのは、ルーター/Linux 管理ホスト/TACACS 認証サーバにまたがる侵害を調査していたときである。

The compromised environment as a bridge into connected targets (Source - Sygnia)
The compromised environment as a bridge into connected targets (Source – Sygnia)

最初に Fire Ant が報告されたのは 2025年であり、2026年に入っても活動を継続しているほか、標的もハイパーバイザーから、企業運用におけるルーティング/認証/監視を担うシステムへと拡大している。攻撃者は侵害したネットワークを中継点として悪用し、トンネルの反対側にある Linux システムの、重要インフラに関連するシステムを探索するため、そのリスクは侵害された組織だけに留まらない。

これは、ルーターにマルウェアを展開するキャンペーンがもたらす脅威と類似しており、アプライアンスの制御奪取によるデータの露出だけではなく、環境の深部へ向けた侵入経路を確立していくものである。

Cisco ルーターを侵害するハッカー

Fire Ant のルーター向けツールキットは、IOS XR のコントロール・プレーン向けに構築されている。”/etc/rc.d/init.d/grub-rommon” に配置された永続化スクリプトは、”/usr/bin/acpid” に偽装したインプラントを 1 時間おきに起動し、活動の可視性を低下させている。

このインプラントはルーターの syslog フローを改変して特定メッセージの配信を阻止する一方、別のコンポーネントは IOS XR のルーティング機能/Telnet 管理機能をアウトバウンド通信に利用する。さらに別のコンポーネントが、コマンド実行を改変して show コマンドに除外フィルタを追加し、トンネル関連の詳細を隠している。

これらの機能により、ルーターは活動の隠蔽と情報収集のための基盤として悪用されている。Fire Ant は複数のルーター・インターフェイスからパケットをキャプチャし、そのデータを外部 FTP インフラへアップロードしている。パケット・キャプチャから窃取される情報には、ネットワーク構成/接続関係/認証などのインタラクションがあるが、それに加えて、防御側が本来は別個のものとして扱っているシステム間の関係が明らかにされる可能性がある。

このレポートでは、ルーターだけでなく、監視プロセスに偽装したバックドア BridgeAgent を実行する Linux ホストについても説明されている。BridgeAgent は暗号化された設定を “/opt/.ICEauthority” に保存し、TLS 経由で外部インフラに接続している。こうして成立するホストは、GRE トンネルを介したスキャン/アクセスの中継点として機能する。

標的となる認証と証拠

Fire Ant は、ネットワーク・デバイス管理の認証と記録サービスである TACACS も標的にした。同アクターの TacTap ツールセットがサポートするのは、”tac_plus” プロセスへの悪意のあるライブラリの注入/許可されたセッションの傍受/難読化した認証情報のログへの書き込みなどであり、これにより、侵害された認証情報がどのように悪用されたかを調査するための記録が損なわれる。

Linux 管理サーバでは、攻撃者がカスタム SSH バックドア/Medusa 関連コンポーネントを追加し、通常のサービスに似た名前を使用することで、SELinux を無効化または機能の弱体化を推進する。パケット・トリガー型バックドアは、特殊なマーカーを持つネットワーク・トラフィックを受信するまで待機し、そのマーカーを受信した時点で起動する可能性があるほか、ポート・リダイレクト/IP フォワーディングにより、隠密なトンネリングも可能になっていた。

中国との関連が指摘されるルーターへの攻撃活動に共通するのは、エンドポイントの証拠と同等の精査がネットワーク・デバイスのテレメトリについても必要になることである。インシデント対応担当者はこうした点を踏まえ、ルーター/認証システム/ハイパーバイザー/ジャンプホスト/管理アプライアンスを、セキュリティ/フォレンジックにおける中核的な資産として扱う必要がある。

調査においては、1 つのデータソースだけに依存するのではなく、ログ/メモリ/ディスク/ネットワーク/認証/設定の証拠を比較する必要がある。それに加えて、未承認の GRE インターフェイス/説明のつかないルーター上での PCAP 作成/外向きの FTP または SCP/コマンド・アカウンティングの欠落/不審な “tac_plus” へのインジェクション/削除後も動作を続けているプロセスといった、侵害の兆候を緊急に調査すべきである。

The compromised environment as a bridge into connected targets (Source - Sygnia)
The compromised environment as a bridge into connected targets (Source – Sygnia)

運用ネットワークへ接続している組織にとっては、外部への公開範囲とセグメンテーションの見直しも重要である。最近の重要インフラに対するレッドチームの調査結果が示しているように、脆弱なアイデンティティ制御/ネットワーク制御により、最初の足掛かりから広範なアクセスへと攻撃が発展する可能性がある。

組織に求められるのは、すべての階層にわたる潜在的に露出した管理者認証情報のローテーション/セキュリティ制御の復旧および検証/クリーンアップ前の揮発性証拠の収集/ルーターおよび Linux システム全体を対象とする、侵害指標の広範な探索である。Fire Ant は、重複する複数の永続化経路とアクセス経路を使用しているため、単一ファイルの削除だけでは不十分となる可能性が高く、影響を受けるすべての技術層を対象として、完全かつ連携した対応が必要になる。

侵害指標 (IoC)
TypeIndicatorDescription
File and SHA-1/bin/atdc164bfc953c66e58b11fc280e69fd43b8f255839Custom SSH backdoor
File/bin/gdmMedusa-rootkit-related component
File and SHA-1/usr/sbin/cupsdd1aa6ab2006b5d9199aa87bb0bbd995aec698ac4fCustom SSH backdoor
File and SHA-1/usr/sbin/smartddc164bfc953c66e58b11fc280e69fd43b8f255839Medusa rootkit binary
File/opt/cybereason/sensor/bin/cybereason-agent/cybereason-agentREPTILE-like binary renamed to resemble a security agent
File/opt/sentinelone/bin/sentinel-agent/sentinel-agentREPTILE-like binary renamed to resemble a security agent
Directory/usr/lib/locateMedusa rootkit working directory
File/usr/lib/locate/.backup_ld.soMedusa-rootkit-related file
File/usr/lib/locate/.lMedusa-rootkit-related file
File/usr/lib/locate/.pdMedusa-rootkit-related file
File/usr/lib/locate/.ptsMedusa-rootkit-related file
File/usr/lib/locate/boot.shCustom SSH backdoor and Medusa-rootkit startup script
File/usr/lib/locate/libdl.soHijacked shared object associated with Medusa rootkit
File/usr/lib/locate/local.txtMedusa-rootkit-related file
Credential artifact/var/log/remote.txtLog associated with harvested SSH credentials
File and SHA-1/usr/sbin/acppid36005f5e4398a1c62a2a9271eddfcc1b44b1ad00TacTap injector targeting tac_plus
File and SHA-1/lib/libseconfd.so955cd45a2f6f226a2fdf44b329af1c8dde90cb38TacTap library injected into tac_plus
Credential artifact/var/log/.tacplus.acctXOR-obfuscated TACACS credential artifact
Unix socket/var/run/acpid.lockTacTap socket used to receive accepted TACACS connection file descriptors
File/var/tmp/.bashrcActor shell-initialization file used with Bash rcfile execution
File and SHA-1/var/tmp/audit13f0c2a598e3aa63856c032a96b110aed963f0e8VMCI/VSOCK backdoor providing a virtualization-adjacent shell channel
Archive/var/tmp/esv3XActor-created archive
Script/var/tmp/hourglass-cnActor-run script
File and SHA-1/var/tmp/ping5ba1242050b5b447052b210788a5a25593d6987dREPTILE-like binary later renamed to masquerade as a security agent
File and SHA-1/var/tmp/sync7dab017f14628345d47bd4eb69cc49224f3054a7TINYSHELL component
Packet capture/var/tmp/tacacs.pcapTACACS packet-capture artifact created by Fire Ant
Archive/var/tmp/ttt.tarActor-created archive
Script/var/tmp/u6.pyActor-created Python script
Archivea.zipActor-created archive
Archivecli.tarActor-created archive
FileclientMalicious client component executed by the actor
Scriptse.pyActor script used for reverse connection and pivoting
Archivettt.zip.encActor-created encrypted archive
File and SHA-1/usr/bin/acpidbe6b27f429324a4af05a310d8ec9635e37c68a94IOS XR implant
File and SHA-1/pkg/bin/dhcpd_show_issu_status1682b652a15bde732489f22809b0b7594c228fd3IOS XR implant with outbound communication functionality
File and SHA-1/pkg/bin/hdb149fa3a34bd585e7a674a4fd9538437bd06f514IOS XR implant used to manipulate command output
File and SHA-1/etc/rc.d/init.d/grub-rommon6ef7d2985edf743ebff413a9298a127e9475d72fMasqueraded persistence startup script
File and SHA-256/usr/sbin/zabbix_agent110e6fb23be00d2ed251a445ee5b65aadf23b48b8db7419900d64539ad90c5a3BridgeAgent Linux backdoor masquerading as a monitoring agent
Service unit and SHA-256zabbix_agent.service251c7a2684542c29ae2c1e1282b780163bf9f844179ef0759094b2b7e2f62f0fBridgeAgent persistence service configured to run as root
Magic stringsxcdewqaz!@#Packet-triggered backdoor activation marker
Magic stringhpaVAj2FJListener child-process kill marker
Magic string;7(Zu9YTsA7qQ#vwPossible command, transfer, or control-session termination marker
Magic stringKS2ow2232ssww2342234323Command-line marker observed with the ntfsfixed secondary binary

注: IP アドレス/ドメインは、意図しない名前解決/ハイパーリンク化を防ぐため、意図的に安全な形式へ変更されている (例: [.])。再有効化する場合は、MISP/VirusTotal/SIEM など、管理された脅威インテリジェンス・プラットフォーム内だけで行う必要がある。