Linux Foundation が推奨する TRACE:ハードウェアが証明する AI エージェントのガバナンス記録

Linux Foundation Introduces TRACE Standard for AI Runtime Evidence

2026/08/26 InfoSecurity — GenAI において、特に AI エージェントにおいてセキュリティ上の課題となるのは、これらのシステムが実際に行ったことの証明である。Linux Foundation は、AI エージェントの活動の透明性を確保し、監査可能かつ信頼できるものにするために、AI の実行時証跡に関する新たなオープン標準を通じて、この課題への対応を目指している。Trust, Runtime Attestation and Compliance Evidence (TRACE) は、ハードウェアにより証明される、AI エージェントのガバナンス記録に関するオープン仕様であり、AMD/Intel/Microsoft/Technology Innovation Institute (TII) の支援を受けて、コンフィデンシャル・コンピューティング・ベンダーの OPAQUE が開発したものだ。

TRACE:エージェント型 AI の活動に対する改竄耐性のある証跡

TRACE は、Internet Engineering Task Force (IETF) と Internet Research Task Force (IRTF) における既存の標準を組み合わせている。具体的には、クレーム・エンベロープに RFC 9711 (EAT) を、証明者/検証者/依拠当事者の役割に RFC 9334 (RATS) を、透明性台帳へのアンカーに SCITT ドラフトを使用する。

これらの標準を組み合わせる TRACE は、AI エージェントの実行環境/実行されたソフトウェア/適用されたポリシー/データ分類/使用されたツールなどを関連付ける、ハードウェアに裏付けられた暗号学的に検証可能な記録を生成する。

その中で注目されるのは、AMD の Secure Encrypted Virtualization (SEV) の利用である。それはハードウェア・ベースのセキュリティ技術であり、仮想マシン (VM) のメモリを暗号化し、ホストのハイパーバイザーやクラウド管理者が、機密データへアクセスできないようにするものだ。

生成される証跡は、クラウドプロバイダー/コンフィデンシャル・コンピューティング環境/主権型インフラストラクチャ間で、移植が可能になるよう設計されており、ユーザー組織による AI ワークロード動作を検証するための手段を提供する。

つまり、AI エージェントの活動に対する改竄耐性のある証跡として機能する。

この仕様に対して Linux Foundation は、ベンダー中立のガバナンスを提供する。同財団の CEO である Jim Zemlin は 8月25日の公式声明 で、「このベンダー中立のガバナンスにより、異なるインフラ間における AI への信頼が、オープンな移植/検証に耐え得るものになる」と述べている。

TRACE は、開発者からも関心を集め始めている。 2026年6月の Confidential Computing Summit で最初に発表された後の 10週間で、そのリファレンス・ライブラリは、PyPI を介して約 13万5,000件ものダウンロードを記録した。

仕様/技術文書/リファレンス実装は、TRACE のプロジェクト・リソースおよび GitHub リポジトリから入手できる。

制御を逸脱した AI エージェントを検証する

共通標準の背景にあるのは、隔離された実験環境から複数のシステムと連携する本番環境へと、組織の AI エージェントにおける機密データの取り扱いを移行させる動きである。

同じく 8月25日に公開された OPAQUE の声明は、AI モデルのサイバーセキュリティ評価中に、OpenAI のエージェントが Hugging Face のインフラを侵害したサイバー・インシデントを取り上げた。

OPAQUE は、「このインシデントが浮き彫りにしたのは、自律型 AI における根本的な課題である。文書化されたポリシーやサンドボックス構成だけでは、有効な状態に維持されていた制御や、実環境のシステムによる実行の内容を証明できない」と述べている。

同社は、「同様の証跡の欠落が、オープンウェイト・モデルにも当てはまる。重みを保有するモデルがインフラを制御することで、導入時の制御力は高まるが、承認されたモデルが改変されずに実行されたことや、必要なポリシーが利用を統制していることを証明するものではない」と述べた。

OPAQUE の CEO である Aaron Fulkerson は、「AI が急速に進歩しているため、AI モデルやエージェントによる推論の方式を、常に予測できるとは限らない。その一方で、TRACE が広く採用されるなら、AI モデルや AI エージェントに許可する動作を制御し、実際に何を行ったのかを証明できる」と述べている。