Adobe Acrobat の脆弱性 CVE-2026-81983 と PoC:悪意のある PDF を開くだけでコード実行

Critical Adobe Acrobat Flaw Lets Malicious PDFs Trigger One-Click Memory Corruption

2026/10/16 CyberSecurityNews — Adobe Acrobat/Reader に存在する深刻な脆弱性 CVE-2026-81983 を悪用する攻撃者は、悪意のある PDF を開かせるだけでコード実行を引き起こせるという。すでに Adobe は、このメモリ破損を引き起こす脆弱性を修正している。この脆弱性の原因は、境界外書き込み (Out-of-Bounds Write) にあり、CVSS スコアは 7.8 と評価されている。攻撃に成功すると、被害者のユーザー権限で任意のコードが実行される可能性があるが、現時点で実際の攻撃における悪用事例は確認されていないと、Adobe は述べている。

Adobe Acrobat の脆弱性 CVE-2026-81983

この脆弱性は、PDF ファイルを開く際に画像データを解析する、Acrobat の画像処理機能に存在する。LLM の支援を受けた Python ベースのファザーを用いる研究者たちは、PDF ファイル全体をランダムに変更する従来型の手法ではなく、構造上有効な小さな PDF ファイルを生成し、内部の画像に関する以下のパラメータを変更しながら異常な動作を調査した。

  • 画像の幅 (Width)
  • 画像の高さ (Height)
  • ビット深度 (Bit Depth)
  • 色空間 (Color Space)
  • フィルター (Filters)
  • 画像サンプルのバイトデータ

その結果、わずか 745 バイトの PDF ファイルに埋め込まれた細工済みの 16 ビット画像により、深刻なクラッシュが発生することが確認された。この結果が示すのは、小さな PDF ファイルであっても、内部の画像データによる深刻なメモリ破損を引き起こす可能性である。

Acrobat.dll の 32 ビット整数オーバーフローが根本原因

脆弱性 CVE-2026-81983 の根本原因は、Acrobat.dll 内で発生する 32 ビット整数オーバーフローである。Acrobat は画像データの処理時に、画像の幅に色成分数を乗算して画像サンプル数を計算し、16 ビット画像のデータサイズを検証する際には、各サンプルに必要な 2 バイトを考慮する。

しかし、画像の幅に非常に大きな値が指定されると、サイズ計算が 32 ビット整数の範囲を超え、整数オーバーフローによって計算結果が本来の値よりも極端に小さくなる。それにより、実際には十分な長さを持たない画像データストリームが、正常なものとして受け入れられる可能性がある。

問題は、サイズ検証と画像処理ループで使用される値が一致しなくなる点にある。サイズ検証では整数オーバーフローによって小さくなった値が使用される一方、バイト順を入れ替える処理 (バイトスワップ) では本来の大きなサンプル数が使用される。それにより、処理ループが 16 バイトのバッファの境界を超えてメモリの読み書きを続け、メモリ破損や攻撃者によるコード実行につながる恐れがある。

PoC では幅 5億3,687万912 ピクセルの画像を使用

研究者たちが作成した概念実証 (PoC) では、以下の画像パラメータが使用された。

パラメータ設定値
画像の幅536,870,912ピクセル
画像の高さ1ピクセル
1成分あたりのビット深度16ビット
色空間DeviceCMYK
色成分数4
計算されたサンプル数0x80000000

DeviceCMYK では、シアン/マゼンタ/イエロー/ブラックの 4 つの色成分が使用されるため、幅 536,870,912 ピクセルに 4 を乗算すると、サンプル数は 0x80000000 となる。Remedio の調査によると、関連するバイトサイズ計算は 0x100000000 に達するが、32 ビット整数演算ではこの値がゼロにラップアラウンドする。その結果、わずか 8 バイトのデータストリームでもサイズ検証を通過できたという。

The size check approves a buffer the loop then overruns (source : remedio )
The size check approves a buffer the loop then overruns (source : remedio )
悪意のある PDF を開くだけで脆弱な画像処理が実行される

今回の脆弱性が悪用されると、細工された PDF ファイルを開くだけで、問題のある画像レンダリング処理に到達する可能性がある。CVSS の評価では、以下の項目が示されている。

評価項目内容
CVSSスコア7.8
攻撃経路ローカル
攻撃の複雑さ低
攻撃に必要な権限不要
ユーザー操作必要
機密性への影響高
完全性への影響高
可用性への影響高

攻撃に成功すると、機密性/完全性/可用性に重大な影響が及ぶ可能性があるが、悪用には細工した PDF ファイルを被害者に開かせる必要がある。ただし、この種の PDF は、メールの添付ファイル/チャット/Web サイトからのダウンロードといった、さまざまな経路で配布される恐れがある。そのため、ユーザーは予期しない PDF ファイルを開かないよう注意する必要がある。

64 ビット演算でオーバーフローを防止

2026年9月8日の時点で、Adobe はセキュリティ情報 APSB26-141 を公開し、脆弱性 CVE-2026-81983 を修正している。修正では、画像サンプル数の計算に 64 ビット整数演算を使用するとともに、計算結果が INT_MAX を超える場合はメモリへのアクセス前に処理を拒否するようになった。これにより、32 ビット整数オーバーフローに起因する、不正なサイズ検証を防止する仕組みが機能するようになった。

修正済みバージョン

Adobe が公開した、修正済みバージョンは以下のとおりである。

製品影響を受けるバージョン修正済みバージョン
Acrobat/Acrobat Reader Continuous26.002.21900以前26.002.21901
Acrobat 2024 Classic24.001.30383以前24.001.30429

対象製品のユーザーや管理者には、修正済みバージョンへの速やかなアップグレードが推奨される。あわせて、以下の対策が重要となる。

  • 修正済みバージョンへの更新:Acrobat/Acrobat Reader を、脆弱性が修正されたバージョンへアップデートする。
  • 自動更新の有効化:今後公開されるセキュリティ修正を速やかに適用できるよう、自動更新機能を有効にしておく。
  • 不審な PDF 添付ファイルへの注意:予期しないメールやチャットに添付された PDF ファイルを安易に開かないようにする。
  • メール・ゲートウェイでの不審な PDF の検査:セキュリティチームは、メール・ゲートウェイで疑わしい PDF ファイルをフィルタリングする。
  • Acrobat.dll に関連するクラッシュの監視:Acrobat.dll に関連する異常終了の発生を確認し、不審な挙動があれば調査する。

Adobe は、脆弱性 CVE-2026-81983 を Critical に分類している一方、NVD は、悪用には被害者が細工されたファイルを開く操作が必要になると指摘している。

AI 支援によるファジングで脆弱性を発見

今回の発見が示すのは、AI を活用した集中的なファジングにより、長年にわたり利用されてきたファイル解析処理に潜む深刻な不具合も発見できることだ。研究者たちは、LLM の支援を受けた Python 製のファザーで画像データの特定のパラメータを変更し、整数オーバーフローと境界外書き込みを引き起こす条件を特定した。

PDF のように複雑なファイル形式を扱うソフトウェアのセキュリティ検証において、AI が有用な支援手段になり得ることを、この事例は示している。

現時点で Adobe は、今回の脆弱性の実際の悪用事例を確認していないが、細工された PDF を開くだけでコード実行につながる可能性があるため、修正プログラムの適用が重要となる。

PDF に関連するセキュリティ・リスクについては、過去に報告された任意のコード実行を可能にする Adobe Acrobat Reader の脆弱性や、悪意のある PDF を通じて悪用される Adobe Acrobat のゼロデイ脆弱性に関する事例も参考になる。